前回は、私たちのすぐ身近な生き物たちが、姿を見せなくなった現実をお話ししました。今回はその背景にある自然界のバランスの崩壊についてもう少し掘り下げてみます。鳥たちが来なくなった背景の一つは、彼らのエサとなる昆虫の減少や、地域の森の植生の変化、あるいは気候変動により渡りのルート・時期のづれなど、様々な要因が複雑に絡み合っているのかもしれません。
生態系の中で起きている「ミスマッチ」と「受粉の危機」
これまで、気温の上昇や日照時間の変化といった地球温暖化の影響が、季節のサイクルに合わせて生きる生物たちのタイミングを狂わせ、様々な問題を引き起こしていることは知識として理解していました。しかし、まさか自分が暮らすこの伊豆地域でも、まったく同じ現象が起きているという現実に、驚いています。
その最たる現象が、生態系の中で起きている「食い違い(ミスマッチ)」です。温暖化によって植物の開花や昆虫の羽化の時期が従来より早まった結果、ヒナを育てる渡り鳥などがやってくる時期と、そのエサとなる虫が大量発生する時期に「ズレ」が生じています。その結果、親鳥が十分なエサを集められず、ヒナが餓死してしまうという深刻な問題があります。
また、このタイミングのズレは、「受粉の危機」でもあります。果樹などの花が咲く時期と、ハチなどの送粉昆虫が活動を始めるタイミングがズレてしまうことで、植物が正常に受粉出来ないのです。その結果、農作物や野生動物の繁殖に大きな影響が出ています。実は、この影響を最も身近に感じているのが、我が家にあるサクランボやプラム、梅の木が影響を受けています。地元の養蜂家の話によれば、ここ10年以上前から「日本ミツバチ」の数が激減しているとのことです。
果樹の花が咲く時期と、受粉を媒介してくれるハチやチョウチョ、あるいは小鳥たちの活動・繁殖期がズレてきているようです。そのせいで、春に綺麗な花が咲き誇っても、正常に受粉が行われず、実がつかないか、実がついても秋になる前にほとんどの実が落ちてしまいます。庭に来ていた小鳥たちが激減したことも、こうしたエサのサイクルや受粉の狂いと無関係ではないと思うのですが。
自然の中に住んでいるからこそ見える生態系の変化
都会(ロゴス)に暮らしていると、地球温暖化や気候変動といえば、夏の耐え難い猛暑や、ニュースで報じられる「線状降水帯」による豪雨災害といった「天候の凶暴化」として実感されることが多いかもしれません。また、コンクリートに囲まれた生活からは、自然界の奥深く静かに進行している「生態系の秩序の狂い」にまで目が届かず、実感することは難しいのではないでしょうか。
自然の中の「ピシュスの人」の生活は、自然との接点が近くで密だからこそ刺激が多いものです。自然の中に暮らし、日々の生き物たちの微細な変化に気づける環境にいるからこそ、見えてくる自然界のさまざまな危機があります。人間中心の「ロゴスの視点」から一度離れて、足元の自然が発している小さな悲鳴と変化に真剣に向き合うこと。それがいま、私たち現代人に最も求められているのではないでしょうか。時々、自然の中の生活を体験されてはいかがでしょうか。
さいごに、生物学者の福岡伸一氏は、現代社会が人間の論理や計画である「ロゴス」に偏りすぎていると警鐘を鳴らし、生命のありのままの流れである「ピシュス(動的平衡)」を取り戻すべきだと説いています。

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