世界に育てられた45年~「忘れがたい人」との出会いと学びVol.11   最高の弁護士ヘスス・M・デ・アルフォンソ(Jesús M. de Alfonso)

出会い・学び

【はじめに】

私が在籍していた日本の大手食品会社のオランダ法人は、1990年代前半にオランダを拠点として欧州での新規市場開拓を本格的に開始しました。オランダでの成功を背景に、イギリス、ドイツ、ベルギー、フランス、スペインなど欧州主要国へと事業を広げていきました。海外進出に際しては、将来の商標トラブルを避けるため「ブランド防御」として商標登録を事前に行なうことが原則でした。当時の欧州では、1996年に欧州共同体商標(CTM)制度が始まる前で、各国ごとに個別の商標登録が必要でした。そのために、オランダ、ベルギー、イギリス、ドイツ、フランス、スペインの各国で商標登録を行いました。

そのような環境の中、欧州でのブランドの監視を委託していた代理店から「スペイン・カナリア諸島で当社の商標を使用した商品が販売されている」との連絡が入りました。至急調査した結果、確かに当社の商標を冠した商品が販売されていました。販売地域はカナリア諸島に限られ、販売数量も多くはありませんでしたが、将来スペイン本土で販売されるような事態になれば、商標保護上の重大な問題となり得ます。そこで、当社はスペインの大手食品会社に対し正式に販売停止を求めましたが、受け入れられませんでした。本社との協議の結果、訴訟も視野に入れた対応を進めることになり、スペイン法に詳しくない私たちは、信頼できる優秀な弁護士の選定を急ぎました。

1.【プロフィール】

ヘスス・M・デ・アルフォンソ(Jesús M. de Alfonso)

  • 1969年:バルセロナ大学法学部卒業。弁護士資格のほか、金融法、法心理学、法精神医学の学位取得。
  • 1989年:世界最大級の法律事務所ベーカーマッケンジー(Baker McKenzie)バルセロナ事務所の開設メンバー。
  •       訴訟・紛争解決(リティゲーション)および仲裁部門の責任者(パートナー)を約40年にわたり務める。
  • 2006年:「Worlds Leaders」において欧州の最優秀訴訟実績部門のHighly Recommende Lawyerに選出され、国際的な評価を確立。
  • 2008年:スペイン主要仲裁機関であるバルセロナ仲裁裁判所(TAB)会長に選出。
  •       中小企業向け「略式仲裁手続き」の導入、複雑なビジネス紛争を裁判に頼らず迅速・中立に解決する「プライベート・ジャスティス」
  •       の普及など、制度の近代化を主導。
  • 国際的活動:ICC(国際商業会議所)など国際仲裁手続きで仲裁人・代理人を多数務め、国内外の大学で後進育成にも尽力。

まさに、スペイン法律界を代表する重鎮です。

2.【闘う本物の弁護士との出会い】

訴訟を進めるにあたり、私の基本方針は明確でした。「必ず勝訴すること」。ブラジル勤務時代に数多くの労働裁判を経験してきたこともあり、訴訟では「中途半端な合意』は避けるべきであり、特に凡例主義の強い国では最初の訴訟で勝つことが絶対条件でした。この方針を託せる弁護士を探すため、以前からさまざまな相談に乗っていただいていた根本絵里さん(カタル―ニア州政府産業部門の日本・アジア担当最高責任者、海外投資推進局長)に助言を求めました。ほどなくして、根本さんから「優秀な弁護士を紹介したい」と連絡があり、バルセロナのベーカーマッケンジー事務所へ案内されました。そこで、紹介されたのが、訴訟・紛争解決および仲裁部門の責任者であるアルフォンソさんでした。

初対面の印象は、カタル―ニアの男性らしい髭に覆われた精悍な顔立ち、聡明さと親しみを併せ持っ人物でした。私は、会社概要、欧州での市場開拓計画、そして、商標問題の現状と訴訟に対する基本的な考え方を説明しました。アルフォンソさんは、すべてを正確に理解した様子で、「わかりました。この訴訟をを引き受けましょう」と快諾してくれました。

3.【完璧な仕事ぶり】

◆ 訴訟の全体像を示す明晰な導き

アルフォンソさんに訴訟を正式に依頼した瞬間から、彼はさっそく行動を開始しました。次の会議では、訴訟全体の流れを整理し、私たちに分かるように説明してくれました。商標の世界では、まだその国で正式に販売されていないブランドをめぐるトラブルが少なくありません。争点はいつも同じーー「相手はそのブランドを知っていたのか」「悪意があったのか」という点です。新聞や雑誌、テレビなどでの知名度が判断材料になることも多い。

今回の訴訟も、その典型的な構造を持っていました。ただし、アルフォンソさんはその複雑な流れを、私たちが理解できるように、最小限の段階に整理して示してくれました。

  • 侵害の事実確認
  • 訴訟に踏み切るかどうかの経営判断
  • 必要資料の収集
  • 論点整理
  • 訴状作成と本社確認
  • 法廷での主張
  • 和解への誘導と和解案の作成と本社判断
  • 合意文書の作成と署名

私たちは彼の戦略と判断を信じ、求められた情報を迅速に提供し、訴訟の流れを止めないことだけを心掛けました。そして彼は、どの段階でも必ず「次に何が起こるか」を事前に説明してくれました。判断が必要な場面では、複数の選択肢を提示し、メリットとデメリットを丁寧に比較してくれました。そのおかげで、私たちは迷うことなく決断で来たと思います。

◆ 本社への直接説明ーー強固な信頼築く

とくに印象的だったのは、本社経営陣への説明です。最終段階に入る前、私は「この訴訟は商品ブランドを守る戦いだ。本社は、私から間接的に報告を受けるのではなく、アルフォンソ弁護士から直接説明を聞き、判断したいに違いない」と判断しました。そこで、アルフォンソさんに本社への直接説明を依頼しました。彼は即座に快諾し、準備を整え、私とともに本社に向かいました。

会議室での彼は、訴訟の構造、争点、取るべき戦略、そして想定される展開を、経営陣が理解しやすいように順序だてて説明しました。さらに、経営陣からの細かな質問にも一つ一つ丁寧に回答しました。経営陣はその明晰さと人格に深く納得し、それまで進めてきた私たちの方針を全面的に支持をしました。この時出来た強い信頼関係が、その後の展開をスムーズにしたことは言うまでもありません。

◆ 法廷での弁論と交渉――最終合意への道

そして、私が最も心を動かされたのは、彼が自ら法廷に立ち、弁論に集中したことでした。私の過去の経験では、法律事務所のパートナー弁護士の多くはデスクワークに徹し、法廷での弁論は他の弁護士に任せることが多かったと思います。しかしアルフォンソさんは違いました。自ら法廷に立ち、言葉を尽くし、こちらの正当性を一つ一つ積み上げていきました。その姿を知ったとき、「この人に任せてよかった」という確信を強めたのです。

そのご、私の考えは、総合的に判断して、法廷で相手の企業を打ち負かすのではなく、話し合いによる解決がいいのではないかと思い、アルフォンソさんと検討した結果相手方弁護士と交渉に入ってもらうことになりました。アルフォンソさんは、相手方弁護士と幾度もタフな協議を重ねた末、当社の思い通りの内容を備えた合意文書が完成し、本社から正式な承認を得ることができました。そしていよいよ合意文書に署名するとき、これまでの長い経過を静かに振り返りながら、ゆっくりと署名しました。そして相手方の社長が署名して合意文書を交換した瞬間ーー張りつめていた緊張がふっとほどけ、心の底から安堵感が押し寄せました。アルフォンソさんという優秀な弁護士に出会えた幸運に感謝しました。彼は、私の長い海外でのキャリアの中で最高の、そして最も尊敬できる弁護士でした。彼を信じて進んできた判断は、正しかったのだと心の底から実感したのです。

◆ 最近届いた回想ーー彼が語った「5件のうちの1件」

最近届いた彼からのメールには、こんな回想が綴られていました。「40年以上にわたる弁護士活動の中で、数百件の案件を手掛けてきましたが、御社の案件は、重大な利害関係が絡む、特に難航し、物議をかもした5件のうちの1件でした。私に対する御社とあなたの信頼は、間違いなく私のキャリアの中で最も長く、そしてゆるぎないものでした」この言葉に感動すると同時に、彼は私たちに見えないところで、全力で闘ってくれていたことを改めて知り心の中で感謝しました。

4.【おわりに】

◆ 家族ぐるみで続いた暖かな交流

アルフォンソさんとの交流は、仕事を離れ、彼の奥様のピトゥカさんと妻を含めた四人で過ごした時間は、今でも大切な思い出です。最初に、バルセロナのご自宅に夕食に招かれた時、おつまみ(タパス)に出された”ふんわりした”ハモンセラーノを一口食べた時の驚きの触感は、今でも記憶に残っています。また、コスタ・ブラバ(カタル―ニア州の海岸リゾート)の海辺のレストランで味わった殻付きのウニの濃厚な味は特別でした。古代ローマの遺跡が残っているジローナ地区のベラタラーダ村(Peratallada)にある彼の別荘に招いていただいた際は、「古代ローマ帝国はこの地域まで支配していたのか」と、ヨーロッパの歴史の深さに心を動かされたものです。

◆ 引退後に開いた新しい人生ーー絵画への挑戦

先日届いたメールによれば、弁護士活動を引退した後は、ベラタラーダの別荘で奥様と愛犬のサム(Sam)と過ごす時間が増えているということです。そこで、長年の目標だった絵画に本格的に取り組み、技術も向上し、最近では国内展と国際展で採用されたとのことです。その知らせに 、私は心から嬉しく「彼はどんな世界にいても、努力と才能で道を切り開く人なのだ」と改めて思いました。

◆ ワインづくりのはじまり

さらに現在は、ワインづくりにも挑戦されています。ブドウ畑には約200本の食用ブドウが植えられ、今年初めて収穫を迎える予定だといいます。土を耕し、苗を育て、季節を感じながらワインを仕込む。ーーその姿を想像すると、新たな人生を謳歌されていることが伝わってきます。私は、伊豆の山の中で田舎暮らしをしているので、彼の気持ちを身近に感じることができます。

別荘の一画
リラックスしたご夫妻

◆ 迫った山火事事件

そして今年7月、テレビを見ていたら、スペイン・カタル―ニア州で発生した山火事のニュースです。うろ覚えながらも彼の別荘地に近そうだときずき、すぐメールしました。彼からの返事によると、ブラバ海岸に近いジローナ県 ラ・ビスバル・デンポルダ付近から出火した山火事は、彼らの別荘からわずか7km。テレビでは、消火のメドが立たないという報道。心配していたら、幸運なことに火事は南へと拡大し、彼の別荘は奇跡的に被災を免れたという報告を聞き、本当によかったと安堵しました。

◆ 長い縁への感謝

訴訟という厳しい時間をともに乗り越えた縁が、身近にいていつでも会えるという環境ではありませんが、ともに残りの人生を共有しているように感じます。アウフォンソ夫妻との「縁」は、私たち夫婦の人生にとってかけがいのないものです。そしてその縁が今も続いていることを、心から幸運だと思っています。

アルフォンさん、ピトゥカさん、何時までもお幸せに!!

伊豆の山の中から感謝を込めて。

愛犬サムと一緒のAlfonsoさんとPitucaさん

 

5.【次回の予告】

次回のブログでは、オランダ市場への新規進出事業成功に大きく貢献した「スタートアップ・メンバーズ」の一人、ス・イン(Su Yin)さんを紹介します。[XXXガールズ」の一人です。 彼女の挑戦を紹介します。楽しみにしていてください。

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