世界に育てられた45年~「忘れがたい人」との出会いと学び~Vol.4【日蘭交流の重鎮】ヤープ・ロスト・オネス【Jaap J.N.Rost Onnes】氏

出会い・学び

私の人生において、決して忘れることのできない大切な出会いがあります。その方は、オランダと日本の懸け橋として両国の歴史に深く貢献されたヤープ・ロスト・オネス氏です。オランダ王室や政財界のVIPから、絶大な信頼を寄せられた伝説的な存在でありながら、私たち家族に格別の温かさで接してくださいました。

1.【プロファイル】

●日蘭の懸け橋(元在アムステルダム日本国名誉総領事)

2017年82歳までの約30年間にわたり、名誉総領事を務められました。オランダへの進出企業を4社から約400社へと成長させた立役者です。日本政府からは「旭日中授章」を授与されています。また、2014年のオランダ国王の訪日には、公式代表団の一員として同行しました。オランダ王室は、王室への貢献に対し、王室最高位の「オラニエ家勲章大名誉十字章」を授与しました。

●国際的な銀行家(ABN AMRO 副頭取)

銀行家として、大手ABN AMRO銀行の幹部として積極的な役割を果たしました。特に、世界中の8,000の銀行との連絡・調整を担当していました。

●究極の人間力

数千人の政財界VIPとのネットワークを誇る伝説的なトップバンカーであり、「人と人を結び付けてビジネスを生む」先駆者と評価されています。どんな些細な顧客の要望にも翌日には自ら動く、徹底した顧客第一主義を貫いた方と言われています。

2.【私にとってのロスト・オネスさん】家族ぐるみの交流

ここまで輝かしい公的なプロフィールを紹介してきましたが、私と妻にとってのロスト・オネスさんと奥様のマリー(Mary)さんは、家族ぐるみで温かく迎えてくださった「人生の貴重な友人」でした。ご夫妻は「私たちのオランダ生活がより楽しいものになるように」と、数々の特別なイベントや華やかなレセプションへ、いつも夫婦そろって招待してくださいました。

また、ご夫妻が訪日された際には一緒に浅草観光をたのしむなど、国境や立場を超えた温かい時間を共有させていただきました。目の前の人を喜ばせようとするロスト・オネスさんの「究極の人間力」が生んだ忘れられないエピソードは、後程詳しくご紹介します。

3.【存在するだけで信頼を担保する、本物のリーダーの器】

そんな雲の上の人のような存在であるロスト・オネスさんですが、未知の市場であったオランダ、そしてEUへと進出し、事業を展開しようとしていた当時の私たちにとって、人生の筋目を支えてくれた「最大の理解者」でもありました。ロストー・オネスさんは、こちらからアドバイスを求めない限り、決して余計な口を出されることはありませんでした。しかし、私たちが主催した事業開始の「オープニング・セレモニー」や「オランダ交響楽団スポンサー契約レセプション」などの重要なイベントには、いつも積極的に足を運んでくださいました。

ヨーロッパではまったくの無名だった私たちにとって、ロスト・オネスさんが会場にいてくださるだけで、現地の政府や地方自治体、経済界からの「格」や「信頼」がぐっと高まるのを感じました。多くを語らずとも、その圧倒的な存在感によって私たちの挑戦の後ろ盾となり、無言で支えてくださっていたのです。いつも笑みを絶やさず、誰にでも声をかける。「何も言わずにただそこにいるだけで相手を全肯定し、信頼を担保する」という、本物のリーダーの器の大きさを、私は直接肌で感じさせられました。

4.【ネットワーキングの拡大】新たな交流と確かなご縁

ロスト・オネスさんは、私たちのイベントに参列してくださるだけでなく、私がオランダで円滑にビジネスを展開できるよう、ネットワーク拡大にも多大なご配慮をしてくださいました。オランダ政府や地方自治体、ABN AMRO銀行が主催する公式な行事に私が参加できるよう手配し、現地の方々に私を「大切な仲間の一人」として紹介してくださったのです。ロスト・オネスさんに紡いでいただいた方々との交流を重ねることで、私たちの会社が少しづつ社会に深く受け入れられていくのを肌で実感することが出来ました。

なかでも特筆すべきなのは、ロスト・オネスさんの勧めでお招きいただいた、ピーター・ファン・フォレンホーフェン氏(マルフリーテ王女の夫君)が主催するチャリティー・ガラコンサートへの参加です。このコンサートは、フォレンホーフェン氏が名誉会長を務める「犯罪被害者支援基金(Fonds Slachtofferhulp)の主催によるもので、会場はいつも王室ゆかりの「ヘッテロー宮殿(Paleis Het Loo)」でした。ロスト・オネスさんの後押しがあり、私たちには毎回、メインテーブルのすぐ傍という格別なテーブルが用意されていました。このチャリティー・ガラコンサートへの同席は、私たちがご招待したお客様や協賛者の方々に対し、我が社の信頼度をなによりも雄弁に証明してくれるものとなりました。

そして、ロスト・オネスさんが広げてくださった貴重なネットワークは、私の独立後にも素晴らしい形で繋がっていきます。オランダにおける日本酒の普及促進に力を尽くされることになる福島県の「大七酒造」の太田社長も、このガラコンサートに参加され、出席されたオランダのVIPの皆様に大七の銘酒がふるまわれるという誇らしい場面にも立ち会うことが出来ました。

5.【人生の筋目に温かい祝福】

日蘭通商400周年の記念の年だった2000年4月、私は大変名誉なことにオランダ女王から「オラニエ=ナサウ勲章(騎士章)」を授与されました。私にとってはまさに「目耳に水」の驚きでした。この受勲の当日、ロスト・オネスさんは,なんとABN アムロ銀行本店の特別なエグゼクティブ・ダイニングで、盛大な祝宴を催してくださったのです。ロスト・オネスさんのスマートで温かい思いやりと、私の歩みを我がことのように喜び、力強く祝福してくださる姿に、胸が熱くなるほどの感激を覚えたことは、今でも鮮明に記憶に残っています。

6.【オランダ社会への手引き】暮らしを彩る、伝統行事への招待

私たちがオランダ社会に深く溶け込み、現地での生活を心から充実させられるようにと、ロスト・オネスさんご夫妻は、オランダに古くから根ずくさまざまな伝統行事やイベントへ、いつもわたしたちを招待してくださいました。会場へ足を運ぶと、そこには決まってロスト・オネスさんと奥様のマリー(Mary)さんが、暖かい笑顔で出迎えてくださり、その心のこもったホスピタリティーに感激したものです。それらの中から、特に印象深い二つの行事をご紹介します。

①聖ニコラスの祝祭「シンタクラース祭(Sinterklaas)」

オランダには、サンタクロースの起源となった聖ニコラスを祝う、12月5日の「シンタクラース祭」という大切な伝統があります。11月中旬にスペインから蒸気船でオランダに上陸したシンタクラースは、忠実な助手である陽気な「ズワルト・ピート(黒いピート)たちを従えて各地をパレードします。ピートたちが子供たちに「ペーペルノーテン」というスパイスの効いた小さなお菓子を配りながら進む姿は、街中を笑顔でいっぱいにします。そして、クライマックスとなる12月5日の夜に、子供たちへプレゼントが配られるのです。

私たちは、アムステルフェーン市が日系社会のために主催したこの「シンタクラース祭」に招待いただき、オランダ人が何世代も大切にしてきた暖かなお祭りを、肌で楽しませていただきました。

②初夏の風物詩「へリング(ニシン)とジュネバ(オランダのジン)のパーティー

毎年5月末から6月初旬のニシン漁解禁に合わせて、ABN アムロ銀行とロスト・オネスご夫妻が主催されていた、実に心も軽く楽しいパーティーです。この会には在オランダの日系社会から多くの人々が招待され、大切な交流の場となっていました。会場となったのは、ハーレム近郊のサンポールト=ノードにある緑豊かな美しいお城「ダイン・エン・クラウドベルフ(Duin & Kruidberg)です 。なんと駐車場から会場のお城までは、優雅な馬車で送り迎えをしてくれるという粋な趣向が凝らされていました。

お城に到着すると、ヤープさんとマリーさんがいつものように温かく迎えてくださいます。こうした格式高くもアットホームなイベントを通じて、普段はなかなかゆっくりお話しする機会のない奥様のマリーさんとも親しく言葉を交わすこともでき、私たち夫婦に取り、また日系社会の人々にとり、忘れられない素晴らしい時間となりました。

へリングとジュネバパーティーで
へリングとジュネバパーティーで

7.【日本での再会】公式行事にはない小旅行の楽しみ

ロスト・オネスご夫妻は、確か世界がコロナ禍に見舞われる直前の2019年まで、毎年11月に訪日されていました。私たちは、VIPとして過密な公式スケジュールをこなすお二人に対し、せめて短い時間だけでもホッと息を抜ける時間を過ごしてほしいと考えました。そこでロスト・オネスさんの秘書の平沢さんと相談をし、公式行事では訪れないような庶民的なプログラムを企画しました。

①はとバスのオープンバスで巡る、東京観光

何度も訪日されておられるお二人ですが、「屋根のない二階建ての観光バスで東京の街巡る」という体験は初めてのことで、11月の冷たい風を感じながらのバスツアーは、「最高に面白かった」と楽しんでくれました。

②特急「踊り子号」で行く、伊豆への小旅行

伊豆の山中にある私たちの拙宅にも来ていただきました。普段は常に用意された車で移動されるお二人ですが、今回は距離も遠いので電車移動を提案しました。東京駅から特急「踊り子号」に乗って往復していただくという、ローカルな電車の小旅行になりました。外務省のお世話係の方は、ご夫妻が東京駅に無事に戻られるまで気が気でなかったことでしょう。後日、ロスト・オネスさんに電車の旅の感想をお聞きすると「最初は少し緊張したけれど、本当に楽しい旅だったよ」と。リフトで登った大室山から見た富士山と相模湾の大パノラマの思い出とともに、楽しそうに語ってくださいました。

伊豆半島大室山のリフトから、富士山と相模湾を望む
伊豆高原、坐魚荘にて

③浅草寺参拝と、粋な人力車の浅草街巡り 

「実はまだ浅草にお参りしたことがない」というお二人のために、浅草寺の参拝と名物のてんぷらを食べるというプランを企画しました。ロスト・オネスさんは、参拝時におみくじを引かれました。お二人は、おみくじを開いて「なんて書いてるんだろう?」と興味津々でのぞき込まれた姿が今も目に浮かびます。賑やかな仲見世通りをのんびりと散策し、食事の後は、人力車で浅草を一周していただきました。これ以上ないご満悦の表情を浮かべられ、私たちも嬉しくなりました。「次は、東京湾のディナー付クルーズに行きましょう」とお約束したのですが、残念がらまだ実現には至っていません。

浅草寺で、”おみくじを引き”興味津々
浅草の街を人力車で見物

8.【ヤープさん、マリーさん】

たぐい稀なる人脈と情熱で、オランダと日本の歴史的な架け橋となったヤープ・ロスト・オネスさんご夫妻。しかし、私たち夫婦にとって何よりも特別で忘れられないのは、お二人がいつでも注いでくださった「深くて温かい思いやり」と人間味あふれる真心です。どんな時にも私たちのことを心にとめ、やさしい眼差しで見守り続けてくれやご夫妻。結婚60周年のダイヤモンド婚を迎えられた今も、お互いを深く慈しみ美しい時間を重ねられています。

最近送っていただいたお二人の写真です
ご家族と一緒に

私たちに素晴らしい人生の財産と、真心を遺し続けてくれる「ヤープさん」と「マリーさん」へ心からの「ありがとう」を捧げます。これからも穏やかで幸せに満ちた日々を過ごされますよう、日本から変わらぬ愛と敬意をこめて、心よりお祈り申し上げます。

◆本記事に掲載している写真はすべて、ご本人およびご家族の事前の承諾を頂いた上で掲載しています。

【次回予告】

次回は、25年間にわたり会社の経理と財務を支えたアントン・ソエトフ氏をご紹介します。楽しみにしていてください。

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